オランダの農業について
オランダの農業の特徴
オランダというと、まず思い浮かべるのはチューリップ畑と風車に象徴されるのどかな田園風景ではないでしょうか。しかし、世界で有数の農産物輸出大国と言われるようになったのは比較的最近のことなのです。
面積にして日本の約4割で、ちょうど九州ほどの大きさしかないオランダは、フランスやドイツのような広大な農地を持たないなかで、圧倒的な農産物の輸出量を誇っています。
オランダの農業の農産物の生産量・輸出量
オランダで栽培されている主要な農産物は花き類(チューリップ球根など)、てん菜、ジャガイモ(馬鈴薯)、玉ねぎ、トマト、キュウリ、パプリカ、生乳、豚肉などで、施設園芸と酪農・畜産が中心的です。また、酪農・畜産のための採草・牧草地も農用地の多くを占めています。
また、実際の生産額を見るとオランダの2020年の名目GDP 9,139億USドルのうち、農林水産業の名目GDPは1.6%にあたる145億USドルで、日本の1.1%より高く、国内における農業の重要性が伺えます。
また、2021年の輸出額は1,224億USドルと世界で2位となっており、輸出額の多さもわかります。
日本より農地面積が小さいオランダが農業大国になった理由
面積にして九州ほどの大きさしかないオランダが、なぜ農業大国となれたのでしょうか?
「産業振興の観点からの農業政策」「利益を生む作物への選択と集中」「スマート農業の進展」、そして「市場原理に則った支援体制と農家の意識」が挙げられます
産業振興の観点からの農業政策
そもそもオランダでは、旧・農業省が経済省に統合されたという経緯もあり、農業はあくまで産業の一分野として取り扱われています。そして、農業政策では産業振興の観点から技術開発を重視した予算配分が採られ、農業予算の22%が研究開発に投入されています。
また、農業に関連する技術を扱う中学、高校、大学といった教育・研究機関の役割を一元管理し、技術開発とその技術を扱える人材の育成を一貫して行える体制を構築しました。具体的には、ワーニンゲンに設立されたUR(University & Research Centre)を中心に世界最大の食品産業クラスターである「フードバレー」を形成し、世界各国から1500社を超える食品関連企業、化学関連企業を集めています。日本からもキッコーマンやニッスイ、富士フイルムなどが参画しており、異業種関連系、産学官連携による技術開発が期待されます。
冒頭でもご紹介した通りオランダは農業に関して様々な政策や方針を打ち出しており、国を挙げた支援の体制を整えています。
利益を生む作物への選択と集中
そんなオランダで実際に生産性の高いシステムを作り出すためにとられている具体的な手段が、栽培品目をできるだけ絞り、少ない品目に集中して大量生産を行うことです。
オランダでは、トマトやパプリカなどの果菜類とチューリップなどの花卉(かき)を栽培する施設園芸が、栽培面積の79.8%を占めています。栽培する作物と品種は、競争力の高いものがほとんどです。少数品目に集中することで、生産効率の向上に向けた技術・ノウハウの開発も進めやすくなります。その他、品目を集約することで、栽培、集荷、流通、販売など一連の作業が効率化されコストを抑えられるため、大幅な省力化が達成できます。
品目を集約した結果、生産する農作物の自給率は数百%にもなりますが、それ以外の農作物は輸入に頼ることになってしまいます。これは、ヨーロッパの国々と陸路を経由して大規模な市場で交易が簡単に行える環境だからこそできることです。
また、近隣にはフランスやドイツなど国民所得の高い国に恵まれているため、付加価値の高い果菜類でもよく売れるという点も優位といえます。この点については、輸出入が容易にできない日本で取り入れようと思っても難しいでしょう。
スマート農業の進展
高付加価値の農産物を集中的に生産する上で欠かせないのがスマート農業です。オランダはスマート農業を積極的に取り入れ、高品質のものを比較的労力を削減して作成することに成功しています。
例えば、オランダでのトマト栽培の単位面積当たりの収穫量は、欧州の最高水準にあり、日本の平均的な農家の約8倍にものぼります。日本の管理されたハウス栽培と比較しても、3倍強という結果も出ています。単に収穫量が多いだけではなく、自動制御による省力化で人件費を抑え、コストも削減されています。
市場原理に則った支援体制と農家の意識
スマート農業なども利用した高度な制御システムを持つ施設栽培が主流のオランダでは、一般的な農家の農業経営において人件費に並んでコストがかかるのが、設備投資やエネルギー費です。
あるオランダの農家では、市場で1本1ユーロ(約125円)で売れるナスを1つ栽培するのにかかる費用は約0.3ユーロ(約38円)で、その内訳は、人件費が約0.1ユーロ(約13円)、エネルギー費が約0.1ユーロ、残り0.1ユーロがその他の費用になるそうです。
日本の農業とは違い、費用が嵩むにもかかわらず政府からの補助金はなく、資金の調達は銀行からの融資が中心です。そのため、事業計画を作成し、銀行が指定する多くの項目をクリアすることが求められます。また、定期的に銀行から経営が計画通りに進んでいるかどうかを確認する審査が行われます。
オランダの農業は基本的に保護政策というよりも自由に競争をさせて、経営をうまくやっている農家だけが生き残ることができ、成長できるという形になっています。オランダの農家がいかに経営や自由競争の原理を重視しているかがわかります。結果として、経営に強い農家が残り、オランダの農業全体の水準が高くなることにつながっているのでしょう。
日本もオランダの農法を取り入れることはできるの?
オランダの農法にはさまざまな工夫がありました。中にはオランダ独自の地形を活かしたものもありましたが、日本で取り入れることができる要素はあるのでしょうか?
農地の集積・集約化
まずは、農地の集積・集約化が挙げられるでしょう。高齢化の影響は農業にも現れていて、高齢のため負担の大きい農作業に耐えられなくなってしまう農家も増えてきています。
そのような現実を踏まえ、農地を集積・集約化することで、農家の負担を軽減することが可能になるでしょう。耕作放棄地も増え、農業から離れて畑や田んぼを手放す方も増えている現状から、大規模な農園を持つことは不可能では無いと考えられます。
スマート農業の推進
また、農地の集積・集約化に加え、スマート農業も導入できるでしょう。
現在では、農薬の散布から防除、作物の熟れ具合を検知して収穫してくれるスマート農機まで存在しています。もちろん初期導入のコストが高い、専門的な知識を必要とする場合もあるなど、さまざまな制約はありますが、これらを適切に使うことができれば農作業の負担を大きく軽減することができます。
これらを踏まえ、オランダの農業の良いところを取り入れることで、日本の農業の状況が良い方向に向かうことは決して実現性の低い話ではないといえるのではないでしょうか。
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参考
オランダの農林水産業概況
オランダの窒素大幅削減策に農業団体が反発 家畜数削減の恐れなどで大規模デモに
世界の農産物・食料品 輸出額 国別ランキング・推移 – GLOBAL NOTE