【農業AIとは?】スマート農業の活用事例と問題点

【農業AIとは?】スマート農業の活用事例と問題点 【農業AIとは?】スマート農業の活用事例と問題点

2023.03.15

農業×AIで実現できることは?

現在の農業の課題

日本の農業において、労働力不足は深刻になっています。農林水産省の統計によると、基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)の数は2022年現在122.6万人であり、2015年の175.7万人と比較しておよそ50万人も減少しています。また、従事者の平均年齢も2021年時点で67.9歳と、高齢化が進展しています。深谷市においても、2015年に4,186戸だった農家の数は2020年には2,134戸となっており、大きく減少しています。
そうした状況の中で、農作業の省力化を目的として、最新技術を活用した「スマート農業」が注目されています。
農業分野におけるAI(人工知能)の活用も現在進行中で、さまざまなサービスが展開されています。
今回は、そうした農業✖AIの活用事例について紹介していきます。

農業へのAI活用のメリット・効果

AIが農業に導入されることでどのようなメリットや効果が期待されているのでしょうか。

自動収穫による作業の効率化

農作物が収穫できる期間はその作物で決まっていて、農家は収穫作業の最盛期に大変忙しくなります。そこで収穫作業をAI搭載ロボットによって自動化できれば、これらの負担を大きく軽減することが可能となります。
早朝や夜に収穫するのが適している作物もあり、収穫作業は特に高齢の農家にとって大変な作業です。収穫のときだけ余分に人を雇うという農家も少なくありません。AIロボットの台頭により、繁忙期の負担は軽減されうるでしょう。

農薬散布量の調整

AIを使って病害虫が発生している個所をピンポイントで見つけられれば、必要最小限の量に農薬を抑えることが可能になります。農薬散布は一般的に、畑全体に対して行われます。しかしながら、この方法では農薬の必要のない部分に対しても農薬が散布されることになり、環境への影響が懸念されます。また、農薬を扱う人自身への悪影響もあるかもしれません。
環境や人体への負荷を減らすのに加え、コスト面でもメリットがあるでしょう。

技術の継承

AIを使って、今まで蓄積されてきた技術やノウハウを可視化できます。農業の後継者育成の課題の1つに、経験知の伝達が難しい点が挙げられますが、可視化されたノウハウをもとにすればスキル習得の早期化が期待できます。
また、初めて農業を始める人にとっても参入障壁が下がり、新規就農の希望者も増えるのではないかと期待されています。

農業にAIを活用していくことのデメリット・注意点

一方、AIはメリットだけではありません。AIが農業に導入されることでどのようなデメリットや注意点があるのでしょうか。

必要なコストの増加

AIはまだまだ最先端の技術であり、導入には安くない初期コストがかかるのが実情です。トラクタや田植え機、コンバインなどの大型農機や収穫ロボット、選別機に至るまで「AI搭載」型になると価格が跳ね上がります。家族だけで小規模に農業を営んでいるような農家にとっては、多額の費用を払うのは負担が大きいと考えられます。ただし、AIを活用することで、作業が効率化でき作業時間や労力を削減できたり、再現性の向上により売上を拡大できたりと期待できる側面も多い一方で、初期コストの負担をどうするかが課題になってきます。これに関しては、後述の助成金や補助金も参考になるでしょう。

扱う機能の難易度

AIは最新テクノロジーを使っています。このため、AIの活用には一定の知識や技術が必要です。優れた製品を導入しても、AIを使いこなす技術がなければ、メリットを活かせません。従来の農作業に求められる能力と、AI活用に求められる能力が異なるため、ほかの農機具のように誰もが使えるものになるにはまだまだ時間がかかるかもしれません。

スマート農業の普及における課題と展望

先に述べたように、農業AIが日本中の農家に導入されるためにはまだまだクリアしなければならない課題が山積みです。

一方で、これらの課題が解消され、AIが本格的に導入されるようになると、日本の農業従事者の労働力不足や高齢化に対して絶大なインパクトを持つ解決策となりうるでしょう。以下に紹介する国内外のAI活用事例では、農業のあり方を根本から変えるようなプロダクトも存在しており、AI技術の発展にはますます期待が寄せられます。

農業AI活用事例

事例1 レグミン

テクノロジーを活用した農作業の効率化を目指すスタートアップの株式会社レグミンは、自律走行型ロボットによる農薬散布サービスを展開しています。倉庫や農業ハウスのような一定の条件下で動かすのとは異なり、露地栽培では地面が土のため、でこぼこしていたり滑る場所もあり、自律走行をコントロールするのが難しいことに加え、GPSによる位置情報の取得では誤差が高度な画像認識による補正が必要な状況でした。さまざまな試行錯誤の結果、自律動作マシン向けのプラットフォームであるNVIDIA Jetson AGX Xavierを搭載することで高精度の自律走行を実現。埼玉県深谷市では「深谷ねぎ」への農薬散布を自立走行型ロボットで行っています。

事例2 H2L

東大発ベンチャー、H2L は、感覚共有デバイスの技術を活用し、遠隔地のロボットをスマートフォンで操作し農業に参加するシステム「RaraaS(ララース)」を開発、サービスを展開しています。
現在、実証実験中のいちご摘みロボットは、目線のカメラと手元を横から映すカメラから状況を把握し、アームやハサミを操作するUIを駆使し、収穫を行います。視覚や聴覚だけではなく、電気刺激を用いることで、体の位置や重量感、抵抗感なども共有できるので、ロボットがいちごをつかんだ感触を操作する人も実際に感じることができます。
将来的には、「農業従事者の減少」「都市一極集中による地方の過疎化」、「外出困難者の社会参画」という3つの社会課題の解決を目指しています。

事例3 AGRIST

アグリストは、農業の人手不足を解決するべく、 AI を活用した収穫ロボットを開発。DEEP VALLEY Agritech Award 2020 では、

  1. 全国トップクラスの収穫量・作付面積を誇る深谷市のきゅうりの農家が抱える多くの課題を解決する可能性がある点
  2. 最低限のシンプルな機能で安価なロボットの開発を目指している点、実用的な社会システムを目指して現場で生産者と共同で収穫ロボットの開発を行っている点
  3. 宮崎県新富町と埼玉県深谷市の様な先進自治体での取り組みを連携させていく点

について、高く評価され、「未来創造部門」で最優秀賞を受賞しました。

従来の収穫ハンドに比べて十分の一ほどの低コストで提供可能な新規性・独自性の高い収穫ハンドを農家と共同開発しています。

事例4 PlantVillage

アメリカのペンシルベニア大学の物理学者と研究チームが、5万件の画像データをAIに学習させることで、植物の健康状態を識別できるようになるシステムを作り上げることに成功しました。
PlantVillageはこのAIをさらに強化するためのアプリケーションで、アメリカだけでなく世界中の農家が病気にかかった作物のデータを写真として共有しています。それらのデータを専門家が個別に診断することで、診断データが蓄積されていきます。今後の展望として、病気にかかった植物に適切かつ迅速なアプローチが取れるようにAIが特定してくれることが期待されています。

事例5 FarmLogs

アメリカのベンチャー企業であるFarmLogs社は、気象データや衛星画像・IoTデバイスといった様々な手段で得られたデータを基にして作物の健康状態や成長具合、土壌の栄養状態から収穫量の予想についてまで、様々なデータを農家に提供するサービスをしています。これらのサービスはサブスクリプション形式で展開されており、初期費用を抑えることができます。
実際に、アメリカの農家では3分の1以上がFarmLogs社のサービスを利用するというデータもあり、人気が伺えます。FarmLogs Flowというサービスを利用すると、農業機械とデータを接続することで農作業のより細かな記録が可能となっています。

事例6 LettuceBot

アメリカの企業であるBlue River Technology社が作り出したLettuceBot(レタスボット)は、トラクターの中に機械学習のエンジンが搭載されています。1分間に5000個ずつの花の蕾を撮影して、生育し始めたレタスの間隔や形を認識して、6mm以内の誤差で雑草を確認して除草剤を散布することができます。また、混み合ったところにも除草剤を散布することで、栄養が特定の箇所に偏ることを防いで生育を助けることもできます。LettuceBotによって、これまで人手や農薬を利用することでしていた除草作業を一任できるだけでなく、化学物質の使用を90%削減することも期待されています。

事例7 Plantect

ドイツに本社を置くボッシュが開発した「Plantect(プランテクト)」は、環境モニタリングとAIにより病害予測ができるサービスです。温度、湿度、CO2、日射量などをセンサーで検出しAIが分析します。このサービスを利用することで病害の感染リスクを92%という高い精度で予測できるとのデータが示されています。予測に基づき農薬を散布するなどの適切な処置を施すことが可能となり、収穫量の向上が期待されます。
また、畑に直接出向かずともさまざまなデータをパソコンやスマートフォンからチェックすることが可能になっており、農家の負担を減らすことができるとともに、過去のデータもまとめて参照できるので、データを活用した栽培方法の改善も図ることができます。

事例8 Prospera Technologies

イスラエルのベンチャー企業であるProspera Technologiesは、農場の管理をすべてAIに任せてしまおうという取り組みを進めています。農場に設置されたセンサーやカメラなどのデバイスが気温・湿度はもちろんのこと、作物の健康状態や病気、害虫などを検出してそれに応じて水分や肥料、採取時期を見極めるだけでなく、収穫量を予測するシステムの開発を進めています。イスラエルは灌漑技術によって食料自給率が95%にも上る農業大国のため、こうした全自動管理の実現には大きな期待が寄せられています。Prospera Technologiesは現段階で植物の危機を察知して対処するシステムが開発されていることから、これからも新しい技術が生み出されていくことが期待されています。

農業AIを導入するには?補助金・助成金は?

先述の通り、農業AIなどのスマート農業は導入コストがかかることや、技能を持った人材が必要となるというデメリットのために、全体的な普及にはまだ壁がある状況です。

しかし、規模の小さい個人農家であっても農林水産省から補助金を受け取ることができ、初期コストのリスクに関しては低減することができます。
農林水産省が提供している補助金は以下の2つがあります。

  • スマート農業総合推進対策事業費補助金
  • スマート農業総合推進対策事業費地方公共団体補助金

これら2つの補助金は支給する母体が国か地方自治体であるかという違いがありますが、基本的には同じ趣旨にもとづいて運営されている制度と考えられます。
申請においては期間が指定されており、書類の作成も必要となるため早めに準備しておきましょう。また、年度ごと、自治体ごとで内容が異なる場合があるため、申請したいと考えている方は、最新の情報を確認するようにしましょう。

これらの補助金制度や、メーカーが提供するコストカットプランなども参照し、積極的に導入を検討してみてください。スマート技術を個々の農家が無理のない範囲で取り入れていくことで、農業全体の活性化や課題解消まで着実につながっていくでしょう。

深谷市はスマート農業・アグリテックの社会実装に取り組んでいます

スマート農業・アグリテック企業の集積地を目指す深谷市が実施するDEEP VALLEY では、スマート農業技術の実証実験のためのさまざまな機会を提供しております。
例えば、「深谷市アグリテック導入支援事業補助金」を用意し、導入コストの負担を軽減することで、企業様の販促活動ならびに農家の方々のサービス導入を促進。市内におけるスマート農業・アグリテックサービスの浸透しやすい環境を整えております。
(「深谷市アグリテック導入支援事業補助金」については、こちら

  • 新製品開発のために実証実験をしたいが農地がない
  • 実証実験にどんな農地が適しているかわからない
  • 実証実験だけでなく現場の声を聞いて農家さんとコミュニティを広げたい

といったお悩みを抱えている企業のみなさまにお力添えできますので、ぜひご相談ください。