【いまさら聞けない】6次産業化の概要と優良事例は?

【いまさら聞けない】6次産業化の概要と優良事例は? 【いまさら聞けない】6次産業化の概要と優良事例は?

2024.02.8

近年、農業界での “新常識” として「6次産業化」が挙げられます。
単に農産物を生産するだけでなく、加工や販売を通して付加価値をつけることで、農業の収益性や地域経済の活性化を図る考え方です。

この記事では、6次産業化の具体的な事例からビジネスモデル、さらには補助金や支援制度まで、農業経営者や地域開発担当者が知るべき情報を網羅的にお伝えします。

1. 6次産業化の概要:事業者が取り組むメリットは?

6次産業化とは、1次産業としての農林漁業、2次産業としての製造業、そして3次産業としての小売業・サービス業等の複数の事業の総合的かつ一体的な取り組みです。
3つの事業を掛け合わせることで付加価値の創出を目指しており、「1次産業の1」×「2次産業の2」×「3次産業の3」のかけ算が6となることから、東京大学名誉教授の今村 奈良臣(いまむら ならおみ)先生が「6次産業」を提唱したとされています。

6次産業化の目的は、農山漁村の経済を豊かにすること。
農畜産物・水産物の生産だけでなく、食品加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)にも取り組み、生産物の価値を上げ、農林水産業の活性化を目指します。

事業者として6次産業化に取り組むメリットとしては、「所得向上」「農産物の生産拡大」「経営基盤の安定化」の3つがよく挙げられます。
また、従業員数を拡大できるなど、「新規雇用の創出」も大事な点です。
一方で、商品開発と事業計画立案は不慣れなこともあり難しく、収益化までの資金の確保に難色を示す事業者も少なくない点はデメリットです。

2. 6次産業化の種類・事例

6次産業化を本格的に推進する「六次産業化・地産地消法」が公布されたのは2010年12月3日。じつに10年以上の月日が経過しました。
農林水産省のホームページで紹介されている80数件の事例を踏まえ、6次産業化のパターンをご紹介します。

(1) 加工品の製造販売

6次産業のオーソドックスな形態です。
農産物などを加工品にして、消費者に直接販売します。商品開発をして、自社または委託で製造して商品化します。販路としては、道の駅、自社直営店以外にも、百貨店など都市圏での出店販売で評判となる例も少なくありません。

北海道下川町の株式会社あべ養鶏場では、商品のブランド化と加工品販売に注力。夏は30℃、冬はマイナス30℃、その寒暖差は60℃という厳しい環境下、ニワトリの健康を第一に考え、飼料には、酵素や乳酸菌などを配合。安心・安全なおいしいたまご「下川60酵素卵」として販売。加えて、下川六〇酵素卵をたっぷり使い、素朴でありながら濃厚で、北海道をギュッと閉じ込めた「えっぐぷりん」をお届けしています。とくに「えっぐぷりん」はその美味しさからさまざまな賞を受賞しており、2023年10月にはジャパン・フード・セレクショングランプリに選ばれました。

(2) 新しい農作物の店舗販売とブランディング

また、加工品の販売まで至らないまでも農作物の売り方を工夫し、ブランディングすることで、需要の創出・取引高の増加に取り組むのも6次産業化の代表例です。

新潟市を中心とした5自治体にまたがる「JA新潟かがやき」(旧JA新潟みらい)では、2000年代、葉タバコの廃作による耕作放棄地解消が課題となっていました。そこで、かんしょ部会はさつまいも(紅はるか)の栽培を推進。砂丘さつまいもを「いもジェンヌ」として商標登録し、ブランド化に注力。農商工連携会議所の設立や地元の大学との連携をすすめつつ、ロゴマークの作成と使用協力により知名度向上に努め、地元の店舗での露出度を高め、地域全体を巻き込んでいきました。
売上高としては4,425万円だったところ、6次産業化の取り組み後 6年で 8,899万円と約2倍になっています。

(3) 直営飲食店・レストランでの提供

法律上、「農地」と登録されている土地は、農業用地としての利用しか認められていませんでしたが、2020年から農家レストランの農用地区域内での設置が全国で可能に。
「農家レストラン」は、農家が自身で育てた農畜産物や地域の食材を使った料理を提供する事業で、こだわりの商品を手軽に食べていただく機会の提供や、メディアに取り上げられることによる知名度向上が期待できます。

長崎県南島原市の農事組合法人サンエスファームでは、自社生産のしいたけを加工・販売し、卸売販売および直売所レストランで提供をしています。
もともと、経営の安定化のため、しいたけの品質向上と市場ニーズに合わせた商品づくりに取り組んだサンエスファーム。プロの料理人のアドバイスを取り入れつつ、消費者への対面販売やバイヤーとの商談によりニーズを把握して試作品をつくり、試行錯誤しながら商品を完成させたそうです。それを直売所レストラン「みなんめキッチン」にて、しいたけバーガーやしいたけソフトなど個性的な加工品を揃え販売することで知名度向上。
6次産業化の取り組み前後で、2億4600万円→3億8300万円と売上が伸びています。

(4) 観光農園での収穫体験の提供

農園での収穫など「体験」を消費者に提供し、親しみをもってもらうのが、収穫体験サービス。「○○狩り(観光農園)」や「工場見学」などの形態をとり、果物や野菜の収穫をはじめ、花きの観賞など、さまざまな作物で行われています。

山形県天童市の株式会社やまがたさくらんぼファームでは、さくらんぼを中心とした世界に誇れる山形の果物を活用し、県内最大級の観光果樹園と直営のカフェやショップの経営、ワイン、ジュース等の加工品販売など幅広く事業を展開しています。
①生産 ②販売 ③観光農園 ④加工 ⑤カフェ の5本柱の確立による各部門の相乗効果が発揮され、経営が拡大し、観光果樹園の売上高は1億8020万円→2億6800万円、カフェの売上は151万円→2,127万円と大きく成長しています。
なかでも、加工やカフェ事業に関心が高い女性を従業員として積極的に雇用したことにより、女性目線の感覚による商品開発や店内レイアウトなどが売上増加に寄与したそうです。

(5) 農家民宿

農家民宿(農林漁業体験民宿)とは、宿泊客に農林漁業の作業や加工、または料理教室や暮らしなどの体験を提供する宿泊施設のこと。通常、民宿の開業には、旅館業法などの営業許可が必要ですが、「農山漁村余暇法」に基づいて一部の許可基準などが緩和され、一般の宿泊施設と比べて開業しやすくなっています。

滋賀県東近江市の有限会社 池田牧場では、牧場に隣接した工房で、生乳からジェラートを製造し販売しています。余剰生乳を活用する必要があったこと、また米国での低脂肪アイスクリームのブームから日本でも流行るだろうと判断したことが取り組みのきっかけ。
さらに、近隣に宿泊体験施設も併設し、観光事業も展開。宿泊施設利用者に牛乳の試飲サービスを行うことにより相乗効果を実現しています。
結果、6次産業化の取り組み前の売上が4,000万円だったところ、20年をかけて1億5400万円の売上高まで成長したとのことです。

(6) 海外への輸出販売

また、近年では単に国内での生産・加工・流通・販売 の一体化に取り組むだけでなく、海外展開も視野に入れた取り組みが多くなってきています。
将来的に、食料自給率の低迷や人口減少・高齢化・経済不況等による食料需要の減少等に直面する懸念があり、成長する東南アジア市場や、インバウンド需要を取り込もうとチャレンジする事例もみられます。

鹿児島県霧島市のヘンタ製茶有限会社では、他の茶生産農家との差別化を図るため、製茶の販売に力を入れてきたそう。粉末茶を含む商品のニーズが国内外に高いことから品質向上と美味しさを追求して、有機栽培による茶葉を生産し、抹茶の加工販売に取り組みました。
とくに、海外のバイヤーを招き有機JAS認定圃場や工場を紹介し、農場管理が行き届き、かつ環境にやさしい点をアピールしたこと、また輸出先で欠品を出さないよう現地に保管倉庫を確保し信頼獲得に努められた点はポイントでしょう。

3. 6次産業化の課題

6次産業化は消費者に届くまでの生産・加工・流通・販売をつなぎ、付加価値を向上させていく取り組みです。
ここまで具体的な事例について紹介しましたが、じつは失敗事例も少なくありません。今後、農山村の活性化という目的の達成に向けて、どのような課題があるでしょうか?

消費者を理解し、見切り発車を回避できるか

”失敗” として多いのは、「6次産業」ブームに乗って、見切り発車をしてしまった事例です。商品が溢れている現代において、商品を用意すれば売れるというプロダクトアウトの視点ではなく、消費者が求めている商品を販売するマーケットインの視点が重要です。
したがって、消費者はなにを求めているのか、どのように売り出せば(パッケージや商品名など)消費者自身が求めているものだと伝わるのか、消費者理解が欠かせません。
したがって、どんな顧客に対し、どのような価値を提供するのか、仮案でもいいので商品コンセプトをつくり、見切り発車を回避することが大事です。

専門知識をもった人材にアプローチし、巻き込めるか

とはいえ、どれだけ良い商品コンセプトを定めることができたとしても、実行不可能では企画倒れに終わってしまいます。6次産業化は、生産・加工・流通・販売と幅広い専門領域にまたがる取り組みです。
そのため、1つのプレイヤーだけでは難しい取り組みとなるため、複数のステークホルダーを巻き込み、地域全体として課題を乗り越えていく、専門人材の確保は急務です。

安全で安心な商品を用意するための設備投資ができるか

また、「食品衛生法」が改正され、食品を扱う全事業者について 2020年6月からHACCP(ハサップ)導入・運用が義務づけられ、衛生管理のハードルが高くなりました。
消費者に安全で安心な商品を届けるため、旧来以上に設備投資やプロセス設計にコストがかかるようになります。商品価値を高めるチャンスであるとともに、失敗した時のリスクにもなり、初期投資にどれだけ踏み込めるか、あるいは地域としてその初期投資コストをいかに低減できるかが課題となるでしょう。

4. 6次産業化に向けたサポート

専門知識や資金について決断が必要な6次産業化ですが、国や自治体としてサポート体制を敷いています。
現在では、農山漁村発イノベーションサポートセンターが、従来の6次産業化の流れを汲みつつ活動しています。
農山漁村発イノベーションとは、従来の6次産業化が、「農林漁業者」が、「農林水産物」を、「加工販売」することで付加価値向上に取り組む物だったのに対し、
地元企業や農村RMO、ベンチャー企業といった「多様な事業主体」が、地域の文化・歴史や古民家など農林水産物に限らない「地域資源」を、スポーツや健康医療などの加工販売に限らない「多様な事業分野」で新事業や付加価値創造に取り組む取り組みとされています。

この農山漁村発イノベーションを推進するべく、大きく3種類のサポートが用意されています。

(1) 農山漁村発イノベーション推進支援事業【ソフト支援】

事業内容

まず1つ目が、ソフト面での支援を目指す「農山漁村発イノベーション推進事業」です。

  1. 2次・3次産業と連携した加工・直売の推進
  2. 新商品開発と販路開拓
  3. 直売所の売上向上に向けた多様な取組
  4. 実施体制の構築や新事業の販路開拓など多様な地域資源を新分野で活用する取組
  5. 試作品の製造・評価や新商品の試験販売など多様な地域資源を活用した研究開発・成果利用の取組

に適用でき、①〜⑤は複数にまたがっていても構いません。
なお、①〜④については簡易な施設を併せて整備することも認められています。

補助率・上限

補助率としては、①~④は1/2以内で、⑤は定額です。
上限額は500万円となっています。

(2) 農山漁村発イノベーション等整備事業【ハード支援】

事業内容

2つ目が、ハード面での支援を目指す「農山漁村発イノベーション等整備事業」です。
「定住促進対策型・交流対策型」と、「産業支援型」の2つがあります。
「定住促進対策型・交流対策型」は、都道府県や市町村が計画主体となり、農山漁村における定住・交流の促進に向けた施設、農産物加工・販売施設、地域間交流拠点等の施設の整備を支援します。
「産業支援型」は農林漁業者等が多様な事業者とネットワークを構築し、制度資金等の融資又は出資を活用して6次産業化に必要となる施設(農産物加工・販売施設等)の整備を支援します。

補助率・上限

「定住促進対策型・交流対策型」の補助率は1/2まで。上限額は4億円となっています。
一方、「産業支援型」は 3/10以内、ただし要件によっては1/2以内まで可。上限額としては原則1億円で最大2億円まで補助されます。

(3) 農山漁村発イノベーションサポート事業【人材派遣等】

そして3つ目は、人材派遣等、専門知識をもった人材との連携をもつ、「農山漁村発イノベーションサポート事業」です。
都道府県サポートセンターにおいて、相談を受け付け、アドバイス等を行うほか、専門家(プランナー)を派遣して経営改善等を支援します。
都道府県サポートセンターに寄せられた相談のうち、特に重点的な支援が必要な案件や高度な対応が必要な案件については、中央サポート事業としてのサポートに加え、地産地消促進に向けたコーディネーターを派遣し、取組を支援します。

まとめ|地域農業の革新を目指す深谷DEEP VALLEY事業をぜひ応援してください!

深谷市では、「深谷DEEP VALLEY事業」という、地元農家とアグリテック企業の協働による産業振興の新たな挑戦に取り組んでいます。
今回ご紹介した、6次産業化の実現も含め、地域経済の活性化と農業の新たな価値創造への道筋を示しています。ぜひ、応援してくださいね!