農業大国アメリカを徹底解剖!~日本とアメリカの農業の違い

農業大国アメリカを徹底解剖!~日本とアメリカの農業の違い 農業大国アメリカを徹底解剖!~日本とアメリカの農業の違い

2023.03.15

アメリカの農業について

アメリカの農業の特徴

アメリカ合衆国は「世界の食料庫」と呼ばれ、世界有数の農業大国です。なかでもトウモロコシや大豆、小麦をはじめとする穀物や豆類を多く生産し、ほかにも牛乳や牛肉、鶏肉など畜産物の生産も盛んに行われています。

トウモロコシと大豆は世界第1位の生産量を誇り、トウモロコシは世界全体の生産量の約3割弱を占めています。

日本とは国土面積も人口も違うので単純な比較はできませんが、カロリーベースの食料自給率が低く(38%)、輸入に頼っている日本の農業の将来を考える上で、アメリカとの違いを知ることは非常に重要と言えるでしょう。

アメリカの農作物生産量・輸出量

具体的な数字を見てみましょう。FAO(国際連合食糧農業機関)の統計によると、2020年現在でアメリカのトウモロコシ生産量は約3億6000万トンであり、大豆生産量は約1億1000万トンです。一方2019年の日本のトウモロコシ生産量は約24万トン、大豆生産量は約22万トンであり、いずれもアメリカの生産量が大きく上回っています。

また、輸出量においてもトウモロコシは約5000万トン、大豆は約6000万トンにものぼり、アメリカの穀物生産は世界的に大きな影響力を持っています。

アメリカが農作物を大量に輸出できる理由

それでは、なぜアメリカはここまで多くの農作物を輸出することができるのでしょうか? その答えは「大規模化」と「効率化」にあります。

少数の農家による大規模化

近年、アメリカでは農地の大規模化が進んでいます。

5年に1度実施されるアメリカ農業センサスによれば、2012年から2016年の5年間で、農業従事者は1.6%減少しています。一方、1農業経営体当たりの平均農地面積は同じ期間で、割合でいえば5.4%増加しています。

この数値から、アメリカの農業は「少数の農家による大規模化」が着実に進んでいることがわかります。アメリカ国内では、特に中北部および西部で大規模化が進んでいる傾向があります。

スマート農業による作業効率の向上

農業従事者が少ない中、高い生産性を可能にしているのは、規模を活かした機械化や効率化です。広大な国土に多様な気候を持つアメリカは、気候の特徴に適した農産物を集中的に生産することで、大幅に効率を上げています。例えば、亜寒帯の気候を持つ北東部では酪農、「コーンベルト」と呼ばれる五大湖南の地域ではトウモロコシ、「コットンベルト」と呼ばれる北緯37度以南では綿花というように、適地適作の原理に基づいて効率的に生産しています。

機械化についても、アメリカには、「Agriculture(農業)」と「Technology(科学技術)」を組み合わせた「AgriTech(アグリテック)」という造語があるほどで、近年日本でも進められている「スマート農業」の考え方と同じく、テクノロジーの力を借りて効率化しようとする動きが活発になっています。

中でも、精密農業といわれる、精密なGPS情報を活用した大型農機やドローンの自動操縦などの技術の発展は目覚ましく、GPSの農業への活用は、少ない人員で大規模な生産を実現するために欠かせないものとなっています。

こうした徹底的な機械化・効率化による大量生産やコスト削減を実現することで、世界中に向けた安価な食料の輸出を支えています。

アメリカの農家は所得が安定?

アメリカの農家の所得推移

上図を見て分かる通り、アメリカの2015年以降の農家所得推移は横ばいが続いています。しかし、2021年には約140億ドルといった急成長を遂げることができ、2022年も同様の水準が見込まれています。安定的な所得の実現により、農家も安心して農業に従事することができています。

農家の所得を守る仕組み

アメリカでは所得が安定的に増加している点以外にも、農業者の所得を守る仕組みが多く用意されています。

例えば、2014年2月に成立した「農業法」では、市場価格が実効参照価格を下回った場合にその差額の一部を補てんする「価格損失補償」や、収入が定められた保障収入を下回った場合に、その差額の一部を補てんする「農業リスク補償」の仕組みが制定されました。

アメリカの農業法は5年に1度改定されます。2018年12月に改訂された最新のものである2018年農業法においても、これらの所得の保障に関する制度は継続され、さらにこれらの補てんは毎年変更することが可能になりました。

その他、価格支持融資制度や価格損失補償といった制度が、農家の所得を守っています。

参考:米国の農業政策:農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_seisaku/usa.html

アメリカの農業から日本が学ぶべき点は?

このように、アメリカでは国が農業の大規模化・効率化を推進する一方で、政策として農家の経営リスクをできる限り減らしています。
このような仕組みを日本でも取り入れることはできるのでしょうか?

農地の集積・集約化

近年では日本でも、農林水産省などが主導して、全国的に農地の集積・集約化による農業の大規模化が進みつつあります。

ただ、日本の農業は中山間地の傾斜地や狭小地にも農地が多く、気候も多様性に富んでいます。そのような環境下で、地域ごとに豊かな品種の作物を生産してきました。大規模な平地が確保できるアメリカと同等には効率化が進められません。

また、日本の食文化は多様性が特徴であり、小規模経営農家の重要性は今後も変わらないでしょう。こうした点は、日本の農業の大規模化が進まない理由の1つと考えられます。

その中で、アメリカ農業に学ぶ点があるとすれば、多くの農地を平野部に集約し、米や小麦、大豆、施設栽培トマトなど、需要の高い作物を大規模化・効率化により生産しながら、一方で、従来の小規模な農業で多様な食文化を支えるという二極化をめざすことではないでしょうか。

スマート農業の推進

農地の集積・集約化には日本特有の課題がありますが、機械化・効率化に関してはスマート農業の推進により達成されつつあります。

例えば、深谷市でも行われているロボットを利用した農薬散布により、農家は手間が省けるようになりました。また、AIを使った収穫予想システム、病害予想システムなどの登場により、これまで農家の経験のみを頼りにしていた作業がデータとして可視化され、間違いを減らすことができるようになってきています。

日本とアメリカで環境は大きく異なっていますが、アメリカの農業大国としての工夫に学ぶところは多く、日本もこれからスマート農業などの手段を活用して良い方向に向かっていくことが期待されるでしょう。

深谷市はスマート農業・アグリテックの社会実装に取り組んでいます

スマート農業・アグリテック企業の集積地を目指す深谷市が実施するDEEP VALLEYでは、スマート農業技術の実証実験のために農地を無料で紹介しています。

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参考
農業政策
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/itakur3.html
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_seisaku/usa.html#1
アメリカ農家の所得
https://www.ers.usda.gov/data-products/farm-income-and-wealth-statistics/data-files-u-s-and-state-level-farm-income-and-wealth-statistics/