農業就業人口の現状と課題:農家を増やすための施策とは?

農業就業人口の現状と課題:農家を増やすための施策とは? 農業就業人口の現状と課題:農家を増やすための施策とは?

2024.02.28

近年、日本の農業は多くの問題に直面していますが、その中でも「人手不足」は最も顕著な問題として挙げられます。収穫期を迎える度に、働く手が足りないことが農業経営の大きな障壁となっています。この問題は単なる労働力の問題に留まらず、農業の未来そのものに影響を及ぼす可能性があります。

本記事では、農業の人手不足の原因から、現代の技術や地域社会との連携を活かした解決策までを詳しく探ることで、持続可能な農業経営の実現を目指します。経営者としての視点での取り組み方法や新しい可能性について考える手助けとなることを期待しています。

1.はじめに:農業就業人口の現状と課題

近年の日本の農業はさまざまな問題を抱えています。その一つが「農業就業人口」の減少と高齢化です。統計によると、農業就業人口は年々減少傾向にあり、また平均年齢も上昇しています。これらの現状が、食料自給率の低下や地域経済の衰退を招く可能性があります。

その一方で、都市部から地方へのUターンやIターン、農業への転職を考える若者も増えてきています。しかし、現実の農業は厳しい労働環境や経済的なリスクなど、多くの課題を抱えており、これらをどう解決していくかが求められています。

本稿では、上記のような農業就業人口の現状と課題について深掘りし、新たな農家を増やすための解決策や取り組み事例を紹介します。

2.農業人口の推移と現状

(1)基幹的農業従事者数の推移

日本の農業人口は長期的な減少傾向にあります。農林水産省の「農業労働力に関する統計」の結果では、2005年(平成27年)時点では224.1万人であった基幹的農業従事者数は、2015年(平成27年)時点では175.7万人、2020年(令和2年)時点では136.3万人、そして、2023年(令和5年)の推概数値では 116.4万人となっています。

参考:農業労働力に関する統計:農林水産省
   (1)基幹的農業従事者:農林水産省

(2)農業人口の高齢化とその影響

農林業センサスによると、基幹的農業従事者における20~49歳の階層は2015年から2020年にかけての5年間で、12.4万人から14.7万人と、2万2千人増加しています。

しかしながら、基幹的農業従事者数は大幅な減少となっているのは、70歳以上の階層の減少率が高いためです。すなわち、農業人口の高齢化が進んでいます。

この高齢化は農業に多大な影響を及ぼしています。まず、体力的な限界から操業が困難になるケースが増えています。また、後継者不足が深刻化している一方で、新規就農者は大都市圏から地方への移住者が中心であり、地元の若者の定着が進んでいません。

高齢化対策としては、農業の「働きやすさ」を重視した施策が求められます。具体的には、職場環境の改善や農作業のIT化・効率化、外国人労働者の受け入れ拡大などが挙げられます。

さらに、新規就農者への支援策も重要で、生産物の販路確保や就農支援金などを通じて、より多くの人々が農業に参入できる環境を整えていくべきです。

(3)ビジネスとしての農業への期待と現実とのギャップ

近年、新規就農者の中には、農業をビジネスとして捉える人々が増えています。伝統的な生産方法にとらわれず、マーケティングやブランディングに力を入れ、農産物を高価格で販売したり、農産物を活用した加工品や体験型のサービスを提供したりと、創意工夫を凝らした取り組みが見られます。

しかし、一方で現実は厳しいものがあります。高齢化や人手不足、天候に左右されやすい作業環境など、農業固有の問題が依然として存在しています。また、農業ビジネスは製品開発やブランド構築、販売戦略など、多岐にわたるスキルと知識が求められ、それらを一人または少数でこなすのは困難です。

これらの期待と現実のギャップを埋めるためには、農業教育の強化や農業経営の専門家の育成、農業に特化したビジネス支援などが求められます。

3.農業就業人口減少の原因

(1)労働条件の問題

労働条件の問題は、農業就業人口減少の大きな要因となっています。具体的には、以下のような問題が挙げられます。

  1. 長時間労働:農業は季節性が強く、特に収穫期には深夜までの長時間労働が求められることが多いです。
  2. 低賃金:初心者や未経験者が多いため、賃金が低く設定されていることがあります。
  3. 非常勤労働:種まきや収穫など、一部の作業にしか従事できない非常勤労働者が多いです。

これらの労働条件の問題は、新規就農者を阻害し、既存の農家の高齢化を加速させています。これらを解決することが、農業労働人口を増やすための重要な課題となっています。

(2)地方における人口減少・高齢化

地方における人口減少と高齢化は、農業就業人口の減少に大きな影響を与えています。特に、地方都市や過疎地では、若年層の都市部への流出が進行し、現地での農業労働者の確保が難しくなっている状況です。

高齢化率が高い地域では、老齢者が農業を続けること自体が困難であり、世代交代も難航しています。これらの事情から、地方における農業就業人口の減少は避けられない問題となっており、急務の解決策が求められています。

(3)不安定な仕事量

不安定な仕事量が農業就業人口減少の一因となっています。農業は天候や季節に大きく影響を受けるため、仕事量は一定ではありません。春の植付け時期や秋の収穫時期は大忙しである一方で、冬場などは仕事が少なくなる傾向にあります。

このような不安定な仕事量により、年間を通じた安定した収入を確保することが難しく、これが若者の農業就労意欲を減退させていると考えられます。この問題を解決するためには、農業以外の収入源を持つこと、または農業一年生の計画性を高めることが求められます。

4.人手不足解消のためにできること

(1)就労環境や労働条件の改善

農業は季節性の高い労働で、長時間の重労働が求められます。これが若者の就労意欲を薄らげる一因とされています。ここで重要となるのが、働きやすい環境の整備です。

まず、労働時間の短縮と合理化に取り組むことが求められます。これは労働生産性の向上にもつながります。たとえば、以下のようなアクションが考えられます。

  1. 作業効率化のためのITツール導入
  2. 労働分担の明確化
  3. 休暇制度の見直し

また、賃金面での改善も必要不可欠です。安定した収入が見込める環境を整備することで、新たな就農者を増やす可能性があります。具体的には、

  1. 賃金の適正化(最低賃金以上の確保)
  2. 安定的な収入を得られる契約形態の提供

等が挙げられます。これらの改善策により、農業への就業意欲を高めることが可能となるでしょう。

(2)外国人技能実習生の採用

農業就業人口の補充策として注目されているのが、外国人技能実習生の活用です。労働力不足の解消だけでなく、技術やノウハウの伝達を通じた国際貢献が期待されています。

具体的には、農業技能実習制度を通じて、ベトナムやフィリピンなどからの技能実習生を受け入れます。受け入れられる期間は最長5年で、その間に日本の農業技術や知識を学んで帰国後に活用します。

しかし、言語や文化の壁、生活環境の違いなど、双方が抱える問題も無視できません。そのため、実習生の健全な受け入れのためには、適切なケアやサポート体制の整備が必要です。

(3)IT化による効率化・省力化(スマート農業)

IT化が進んだ現代、農業も例外ではありません。スマート農業とは、情報通信技術(ICT)を活用して農業の効率化・省力化を図る取り組みのことです。

具体的には、GPSやドローンを用いた精密農業、AIによる収穫予測や病害虫警報、ロボットや自動運転トラクターによる自動化が挙げられます。これらは、面倒な作業を軽減し、また、労働力に依存せずに高品質な農産物を安定して生産することを可能にします。

また、IT化は農業経営の見える化も実現します。生産データを集積・分析することで、効率的な作物の栽培計画を立てたり、コスト削減につながる施策を打つことも可能です。

このように、ITを駆使したスマート農業は、人手不足解消だけでなく、農業経営そのものの強化へと繋がります。
スマート農業については別記事「スマート農業ってなに?メリットや事例、現状の課題は?」にて詳しく解説しているので併せてご覧ください。

(4)農地集約・大規模化

農業就業人口の減少に対する解決策として考えられるのが、「農地集約・大規模化」です。これは、個別の小規模な農場ではなく、一つの大規模な農場で農作業を行うという考え方で、作業効率の向上やコスト削減が期待できます。

個々の小規模農家が取り組む農業では、労働力不足や機械化によるコスト増が問題となりがちです。しかし、農地を集約し、大規模化することで、大型の農業機械を導入するなどの投資が可能になり、作業効率が大幅に向上します。

具体的なメリットとしては以下の通りです。

  • 集約化による作業効率の向上
  • 大型機械の導入によるコスト削減
  • スケールメリットによる市場競争力の強化

このように、農地集約・大規模化は、農業が抱える労働力不足や低収益の問題を解決し、新たな農業人口を呼び込む可能性があります。

5.具体的な取り組み:農家を増やすための施策

農業人口を増やすための取り組みは様々です。

(1)スマート農業・農業DXによる生産性向上

AIやIoTを駆使したスマート農業や農業DXが進んでいます。高精度なデータに基づき最適な作物生産を行うため、労働力不足を補うとともに、新規就農者へも魅力を提供します。

(2)全農おおいた方式

大分県では全農おおいた式と呼ばれる新規就農者の育成・就農支援システムを導入。就農家の確保と育成に取り組んでいます。

(3)産地間人材リレー

農閑期を利用して他地域の農作業へ参加する「産地間人材リレー」も効果的。これにより、技術交流や人材共有が可能となります。

(4)行政職員の副業解禁

一部の自治体では、行政職員の農業副業を可能にし、農業人口の増加を図っています。

(5)ソーラーシェアリング導入事例

農地と太陽光発電の併用「ソーラーシェアリング」も注目されています。これにより、農業経営の安定化と新規参入を促進することが期待されています。

これらの取り組みを通じて、農業人口の増加と活性化が進められています。

6.まとめ:農業就業人口増加への道筋

農業就業人口の増加は、日本の食文化と地方創生に重要な役割を果たします。その実現には、まず労働環境の改善が必要で、これには適切な労働時間、収入の安定化、休日の確保などが考えられます。

また、外国人技能実習生の活用も有効ですが、彼らが日本の農業に長期的に貢献できるように、言語教育やライフサポートも重要となります。

さらに、IT化による農業の効率化を推進することで、人手不足を補い、一人当たりの生産性を向上させることが期待できます。

そして、農地の集約・大規模化を進めることで、営農の効率を高めることが可能です。

これらの施策が組み合わさることで、農業就業人口の増加への道筋が見えてきます。今後も実証的な取り組みを蓄積しつつ、日本の農業が持続可能なものとなるよう進めていく必要があります。

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