スマート農業の課題は?将来性やメリット・デメリット、取り組む企業を紹介

2023.03.25

担い手不足が大きな問題としてクローズアップされている日本の農業。依然として人手に頼る作業や熟練者でなければできない作業が多く、省力化、人手の確保、負担の軽減が重要な課題となっています。
そんな中、ロボット技術や情報通信技術(ICT)などの「先端技術」を活用して、農作業における省力化・軽労化であったり、新規就農者の確保、栽培技術力の継承などをすすめていこうとする スマート農業 が新たな取り組みとして注目されています。

この記事では、スマート農業の全体像を説明しつつ、スマート農業が抱える課題や、最新事例をご紹介してまいります!

スマート農業とは?その将来性

農林水産省によるとスマート農業とは「ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業」と定義されています。
参考|スマート農業とは、どのような内容のものですか。活用によって期待される効果を教えてください。:農林水産省

要するに、先端技術を駆使した農業ということがいえるでしょう!
矢野経済研究所のレポートによると 2020年度のスマート農業の国内市場規模は 262億1,100万円だったところ、2027年度は 606億1,900万円にまで拡大すると予測されています。また、2022年には、市場価値が2022 – 2030年の予測期間中に18%のCAGRで成長(約24,287百万米ドル→約77,366百万米ドル)すると予測するレポートがでるなど、アグリテックは一過性のブームで終わることなく、将来性がある分野だと考えられています。
参考|SDKI Inc.「世界のアグリテック市場ー予測2022ー2030年」

農業界において注目度が高く、農林水産省や農研機構、また深谷市をはじめとする自治体が実証実験を主催しながら、スマート農業の普及に取り組んでいます。

深谷市の実証実験ページ

スマート農業の具体例

具体的にどのようなものがスマート農業に分類されるでしょうか?

ドローン

スマート農業を代表する存在のドローン。
農薬・肥料用のタンクやノズルを搭載したドローンが、作物上空を飛行し、農薬・肥料を散布します。
ドローンのメリットとしては、急斜面など人が入りづらい箇所にも向かうことができる点で、農作業(防除)にかける時間の短縮や、軽労化が期待されています。
最新のドローンでは播種に対応する機種もでてきており、引き続き注目です。

ドローン

併せて読みたい!|農業用ドローンで効率化!おすすめ機種と補助金情報!

農業ロボット・自動走行トラクター

農業ロボットは、農作物の収穫から畑の耕運や荷物の運搬と、幅広く活躍します。力仕事を受け持つことで農作業の軽労化が得意分野でしたが、最近では遠隔操作の収穫ロボットがサービス展開されるなど、場所にとらわれず農業に従事できる可能性を開きました。
繊細な作業もこなし、非常に注目されています。

併せて読みたい!|農業ロボット・ロボット農機の最新事例!現状の課題と将来性!

アシストスーツ

アシストスーツとは、モーターや人工筋肉などが内蔵されているアイテムのこと。着用することで荷重を分散でき、荷物の昇降時に腕や腰などにかかる負荷を軽減します。
農業現場では、重い物の運搬や同じ姿勢での作業などが多く存在し、体の至る所に負担がかかります。それらの負荷が軽減されることで作業がスムーズに進み、作業時間の短縮も期待できるでしょう。
また女性や高齢者でもアシストスーツのサポートによって、農作業におけるこれまで出来なかった作業が容易となり、仕事の幅が広がることや、就農者の門戸を広げる効果も期待されています。

スマートセンシング

スマートセンシングは、近年急速に発達しているAI(人工知能)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などのICTを活用しながら、圃場の温度や湿度、照度などを感知して数値化→分析し、農業に活かします。
水田の水位センサーであったり、ハウス栽培における温度管理などが挙げられます。

圃場管理・生産管理システム

圃場管理・生産管理システムとは、タブレット端末やクラウド技術を活用して、農作物の栽培履歴を登録。栽培環境や生育状況の可視化を交えながら、農作業の効率化に活かします。
撮影ドローンや衛星画像、スマートセンシングなど、土壌分析データと連携させるなどして、遠隔地から圃場データを確認することも可能で、圃場管理者は作業を軽減することができ、また、営農専門家と情報を共有しながら栽培技術の向上に活かせます。

スマート農業のメリット・期待される効果

スマート農業を導入することで、どのような効果・メリットが期待されているのでしょうか?
農林水産省の「スマート農業の実現に向けた研究会」の取りまとめによると、以下の 5つが提起されています。

  1. 超省力・大規模生産を実現
    トラクター等の農業機械の自動走行の実現により、規模限界を打破
  2. 作物の能力を最大限に発揮
    センシング技術や過去のデータを活用したきめ細やかな栽培(精密農業)により、従来にない多収・高品質生産を実現
  3. きつい作業、危険な作業から解放
    収穫物の積み下ろし等重労働をアシストスーツにより軽労化、負担の大きな畦畔等の除草作業を自動化
  4. 誰もが取り組みやすい農業を実現
    農機の運転アシスト装置、栽培ノウハウのデータ化等により、経験の少ない労働力でも対処可能な環境を実現
  5. 消費者・実需者に安心と信頼を提供
    生産情報のクラウドシステムによる提供等により、産地と消費者・実需者を直結

参考:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/g_smart_nougyo/pdf/cmatome.pdf

これらは、以下の3つに分類でき、スマート農業の効果、導入するメリットといえるでしょう。

  1. 農作業の負担を軽減したり、農地からの収穫量を最大化させたりといった現役農家の生産性を高める取り組み
  2. 新規就農者など農家としてのキャリアが浅い人でも一定の生産量を実現できるようにする
  3. 一般の人々が安心して食を楽しむことができるような取り組み

スマート農業が注目される背景

なぜ、最近になってスマート農業が注目されるようになったのでしょうか?
それは、世界中で農業の人手不足が顕在化しているという背景があります。

カナダのAgriculture and Agri-Food Labour Task Force(農務・農産食品に関する労働タスクフォース)は、同国の農業の人手不足が2025年には11万4,000人に拡大すると試算。アメリカも置かれている状況は同様で、移民の減少が農業の人手不足を招いています。

日本においても同様です。3K(きつい・きたない・危険)といわれる農業で、ご高齢の農家が体に負担の大きな農作業を続けるのは簡単なことではありません。かといって新規参入のハードルも高く、日本の農業の持続可能性が懸念されています。
基幹的農業従事者数は2015年には176万人いましたが、2020年には136万人まで減少しています。また、65歳以上の割合は2015年の64.9%から2020年には69.8%まで増加。人が減って高齢化が進んでいることがわかります。

こうした状況下で、IT技術やスマートセンシング、自動走行技術といった農業に活かせる技術の進歩がみられ、スマート農業(アグリテック)は盛り上がりを見せています。
参考:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2820
  https://jp.weforum.org/agenda/2022/03/jp-autonomous-farming-tractors-agriculture/

スマート農業の普及に向けた課題、デメリット

そんな重要なテーマであり、注目されているスマート農業の課題は、普及率の向上です。 2022年6月28日に農林水産省が発表した「令和4年農業構造動態調査結果」によると、2022年現在 “データを活用した農業を行っている農業経営体数” は22万6800経営体(前年比9.1%増)で、農業経営体に占める割合は23.3%(前年比3.1ポイント増)。実施経営体のうち、データの取得・記録だけでなく分析まで行っている経営体は8.3% とまだまだ改善余地のある水準といえるでしょう。
参考:https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukou/attach/pdf/index-2.pdf

なぜスマート農業が普及していかないかというと、いくつか課題が挙げられています。

  • 1.導入コストの高さ
    スマート農業に活用される機械やサービスは一般的に高価格です。オートトラクターの費用相場は1,000万~1,400万円ほど。 そのため、小規模な農家では導入しても費用対効果に見合わないことが多いのが実際のところです。 設備投資へのコストの大きさは普及を妨げる高い壁となっています。
  • 2.スマート農業技術を農業経営に活かせる人材の不足
    データを活用した農業を行っている農業経営体のうち、約35%がデータの分析まで行えていないという数値が物語る通り、 スマート農業技術を導入してみても、うまく活用できないというケースも少なくありません。 経験や勘ではなく、情報の分析による取り組みを展開していくにあたっても、一定の専門性が必要ですが、農業✖️データ分析 といった複数の専門性をもつ人材は稀有な存在といえるでしょう。
  • 3.新技術であることによる栽培ノウハウの未整備
    スマート農業が比較的新しい技術であることから栽培技術のノウハウが体系化されていないことも大きな課題です。 体系化されていないことで、導入を検討した農家も、自身の農地・農作物で効果を発揮できるか確信が持てず、ただでさえ高い初期コストを払うべきか、意思決定しづらくなります。
  • 4.スマート農業機械の互換性の低さ
    スマート農業技術は、単体ではインパクトは小さく、複数のサービスを利用していくことで農業の生産性向上を目指します。 しかしながら、各社が開発・展開するスマート農業機器やアプリは、互換性がなく、本来なら得られる利便性を損なってしまっている ことが考えられます。例えば水田センサーで得られた情報と、圃場管理ソフトでの栽培履歴データとが連動できないことで、 栽培の振り返りに一手間かかってしまうことがあるでしょう。
  • 5.土地条件・制度条件における制約
    一部地域では不十分な情報通信基盤のため、スマート農業にかかわるICTサービスの利用が制限されてしまう場合があります。 また、日本の農地は概して狭く、また遠距離の圃場を掛け持ちしている場合も少なくなく、ドローンや自動走行農業機械が 最大限にパフォーマンスを発揮しづらい環境ともいえます。 さらには、ドローンの夜間飛行や農薬散布におけるルールなど、制度面でも未整備のところが多く、「とりあえず禁止」と されることで、導入に待ったがかかるような事態も考えられます。

スマート農業の将来性・今後

前述の通り、市場規模の拡大が目覚ましいスマート農業。まさに新しい農業のあり方を期待させてくれます。
“食”という人類共通の関心ごとにまつわるイノベーションは、全世界注目のテーマであることは今後も変わらないでしょう。
しかしながら、ユーザーが増え、スマート農業が当たり前のように普及している未来へは隔たりがあることも事実です。

現時点では、自治体が用意する補助金・助成金が導入にあたっては欠かせない状況といえますが、初期コストの軽減のためのリース・レンタル・シェアリングサービスの広がりがポイントとなってきます。
さらに、スマート農業を導入し、生産性向上につなげるためには、ICT人材の育成や環境整備など課題は山積みです。

こうした状況に対し、農林水産省は「スマート農業実証実験プロジェクト」を実施。プロジェクトを通して、スマート農業技術が実際に生産現場へ導入され、技術実証を行うとともに、技術の導入による経営への効果が明らかになったり、スマート農業技術やサービスの改善がなされたりすることで、スマート農業の社会実装を加速させようと取り組んでいます。
スマート農業の展開に期待しましょう!

スマート農業の企業例

将来性がある一方で、まだまだ普及に課題の残るスマート農業。最後に、スマート農業分野で事業を展開している代表企業をご紹介します。

アーバンエコリサーチ

アーバンエコリサーチはドローンによる空撮、調査、農業用ドローンの運用を行い、自然環境調査等のコンサルティング業務に携わります。 農業の生産性向上・技術承継を課題と捉え、自然環境の状態をデータによる「可視化」で問題点の早期発見を行い生産効率向上に取り組みます。
農作物の生産に関しては、今までの経験をもとに作業することが多く、データ化されていることが少ない領域。その結果、次世代の作業者様は一からデータを取得する必要があり、業務自体、大変ハードルの高いものとなっています。
そこで、ドローンによる空撮を行い、その撮影データを分析することで課題を明確化。センシングデータをオンラインで生成、確認できる点が強みです。 また、セキュリティ面でも安全に使用でき、環境省や東京都、日本原子力研究開発機構といった諸団体でも導入実績があります。

レグミン

農作業ロボット・IoTデバイスの研究開発や農作業受託サービスを展開しているレグミンは、農業における人手不足・労力不足を大きな課題と捉え、農作業のなかでもとくに生産者の大きな負担となる「農薬散布」に着目目。重労働である一方で、ピークのある農作業であるため人員を増やすような対応がとりづらいなか、自律走行型農業ロボットによる農薬散布サービスを展開しています。
地面の固さが異なり、凹凸のある圃場において、自動走行の実現が難しかったところ、小型で高性能な組込み用コンピューターであるNVIDIA Jetsonのほか、カメラや地磁気センサー、GPSなど多数のセンサー類を搭載することで、課題を解決。 人が動力噴霧機を用いて1人で作業した場合に1haあたり400分かかるところ、250分まで短縮。50haの圃場の走行も実現し、広範囲の農作業にも対応できている点がレグミンの技術の高さの証拠です。 ユーザーからも「ムラなく農薬散布できている」「音が静かなので朝晩も散布できるのがいい」などの評価を受けています。
参考|アグリテックベンチャーのレグミン、自律走行型農業ロボットによる農薬散布サービスを提供開始

AGRI SMILE

「テクノロジーによって、産地とともに農業の未来をつくる」を理念として掲げるAGRI SMILEは研究から栽培支援、販売支援と幅広く産地の課題解決に取り組んでいます。 産地の栽培履歴をクラウドで一元管理し、データを次の栽培へ活かす KOYOMIRUは、産地ごとの栽培技術の承継を課題とした、栽培支援のプロダクト。
また、欧米で脱肥料・カーボンニュートラルな農業の切り札として注目が集まっているバイオスティミュラントの研究開発に注力。有効な原体を集めたライブラリーを提供し、農家がバイオスティミュラント資材を比較しやすくすることで、今後の普及の土台を作っています。加えて、自社独自のバイオスティミュラントを廃棄食材から開発しています。
参考|AGRI SMILE、国内初!脱炭素社会実現に向けて食品残渣からバイオスティミュラント化に成功

併せて読みたい!|バイオスティミュラント(BS資材)とは?成分や効果、化学肥料との違い

深谷市はスマート農業・アグリテックの社会実装に取り組んでいます

スマート農業・アグリテック企業の集積地を目指す深谷市が実施するDEEP VALLEYでは、スマート農業技術の実証実験のために農地を無料で紹介しています。
・新製品開発のために実証実験をしたいが農地がない
・実証実験にどんな農地が適しているかわからない
・実証実験だけでなく現場の声を聞いて農家さんとコミュニティを広げたい
といったお悩みを抱えている企業のみなさまにお力添えできますので、ぜひご相談ください。

事例O1

農家目線のフィードバックで
ロボット開発が加速

株式会社レグミン
株式会社レグミン
代表取締役

成勢 卓裕さん、野毛 慶弘さん

DEEP VALLEY Agritech Award 2020
現場導入部門最優秀賞

事例O1

農家目線のフィードバックで
ロボット開発が加速

深谷市での取組前
自社圃場で自律走行型農業ロボットの実証を行っていたため開発スピードは保てましたが、農家や農業法人の目線のフィードバックを十分に得ることができず、改良点の洗い出しに苦労しました。
深谷市での取組後
深谷市で自律走行型農業ロボットの実証を開始してからは深谷市にご紹介いただいた農家や農業法人からの多数のフィードバックをいただき、改良点の洗い出しがスムーズになり深谷市での取組前よりもロボット開発が加速しました。
深谷市からは農家や農業法人のみならず、埼玉県の農林振興センターや農業協同組合、資材店など様々な業種の方々をご紹介いただき多方面からの協力を得ることができました。
また、レグミン社主催のロボット見学会実施の際にも、農家や農業法人などへの声掛けにご協力いただけたことにより盛会となりました。