農業DX構想とは?具体例や農水省が推進する背景

農業DX構想とは?具体例や農水省が推進する背景 農業DX構想とは?具体例や農水省が推進する背景

2022.12.27

現状の農業の課題

農業従事者の高齢化と労働不足

日本の農業において、高齢化と労働力不足は深刻になっています。農林水産省の統計によると、基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)の数は2022年現在122.6万人であり、2015年の175.7万人と比較しておよそ50万人も減少しています。また、従事者の平均年齢も2021年時点で67.9歳であり、決して若いとは言えません。

本記事では、このような現状を打破すべく注目されている農業DXについてご紹介します!

農業DX構想の現状

農業DXとは?

農業DXとは、農業分野でのデジタルトランスフォーメーション(DX)を指します。既に他分野で用いられているDXという概念は「デジタルテクノロジーを駆使して、経営や事業の在り方、生活や働き方を変革すること」と定義されており、これを農業分野でも実践しよう!という取り組みです。

農林水産省では農業DXの目的を以下のように設定しています。

> 農業者の高齢化や労働力不足が進む中、デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業(FaaS: Farming as a Service)への変革の実現

また、将来像としては次のように記述されています
>農業や食関連産業に携わる方々がそれぞれの立場で思い描く「消費者ニーズを起点にしながら、デジタル技術で様々な矛盾を克服して価値を届けられる農業」

すなわち、先に述べたように様々な課題の残る農業分野において、デジタル技術を駆使してそれらの問題を解決していくことが農業DXの目的であると言えるでしょう。

農業DX構想の課題

もちろん、これらの目指す姿の実現にはまだ課題が残っています。
参考:https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/joho/210325.html

現場の課題

スマート農業の現場実証は徐々に進んでいる状況ですが、実際にデータを活用した農業を行っている経営体は全体の2割弱であるというデータがあります。これは、スマート農業を導入して様々なデータを入手することは簡単になってきたが、現場においてデータを扱うリテラシーの高い人材が不足しているということです。

行政の課題

現時点では、ほとんどの行政手続き(申請や審査など)が紙媒体・手作業で行われています。 行政手続きに関しては、農林水産省共通申請サービス(eMAFF)がすでに立ち上げられています。これまで申請者は窓口に足を運ぶ必要があり、農林水産省の内部でも紙媒体・手作業、書面・押印・対面を前提とした業務が行われ、双方に負担がありましたが、eMAFFによって窓口が一本化され、申請者もオンライン上で申請が可能になり、負担の軽減が期待されています。

農村地域の課題

インターネットを用いて、地域課題の解決を図る取り組みが行われている地域もありますが、限定的なものとなっています。農村地域では通信環境が整っていないところもあり、遠隔操作をするドローンやデータの送受信に問題が生じる場合があります。

流通・消費者の課題

小売業などの業界ではDX化が浸透しつつありますが、農業分野では、物流の効率化にデジタル技術を活用する取り組みは限定的となっています。

国内の農業DXについての事例紹介

これらの課題解決に向け、国内では様々な企業が農業DX導入に向けた取り組みをしています。

Agrihubの農業DX

株式会社Agrihubでは、エンジニア兼農家である代表の伊藤氏が農作業中に感じた現場の課題を解決すべく、個人農家向けアプリケーション「AGRIHUB(アグリハブ)」を開発しました。アグリハブの農薬検索や散布管理機能は、これまでにない機能と操作性を実現したことで、生産者のみならずJA職員にも多く利用されています。

同社はJAなどの農産物販売事業者向けの農薬適正使用管理に特化した業務管理システムであるアグリハブクラウドも開発しており、これらのシステムを導入することで生産者・農産物販売事業者ともに大幅な業務改善ができ、労働コストの削減だけでなく、より正確な農薬使用へとつながります。
参考:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/dx/dxsub/dxcase6.html
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000067869.html

富士通の農業DX

遠隔で農業ロボットの完全自動運転を実現するためには「高速・大容量・低遅延」といった特性を持つ5G通信が欠かせません。そこで鹿児島堀口製茶有限会社は、富士通の持つ5Gに関する高度な技術とノウハウを生かして農業ロボットの完全自動運転に取り組んでいます。

また、ドローンを用いたリモートセンシングにより広大な茶畑を上空から撮影し、その画像を解析する技術も開発を進めており、これにより、病害虫の有無や収穫適期を迎えているか否かを人が現地に行かなくても把握できるようになることが予想されます。

最終的にはドローンで撮影した画像をAIで分析することで、摘採時期の予測に役立てる構想も持っており、AI、5Gの技術を用いて完全自動で効率的な農業の実現に取り組んでいます。
参考:https://www.fujitsu.com/jp/innovation/5g/usecase/casestudies/horiguchi/

海外の農業DXについて

アメリカの事例

世界一の農業大国であるアメリカでは、スマート農業は、Agriculture(農業)+Technology(科学技術)の造語で、「Agri Tech(アグリテック)」という呼称が一般的です。
アメリカのアグリテックとして代表的なのは、ドローンです。適切な範囲に適切な量の農薬を散布するだけでなく、農作物の生育状況や土壌の状態などの様々なデータを収集して、農地の状況を分析することに使われています。
ベンチャー企業のFamLogs社のサービスは、アメリカの農家の3分の1が活用するほど人気となっています。衛星画像から収集した農作物の状態を蓄積したデータと照合して分析し、土壌の状態に合わせた適切な作付量や肥料の分量を農家にアドバイスしています。

オランダの事例

オランダの土地は痩せており、日照時間も短く、農業に適した国土とは必ずしも言えません。しかし、ICT技術を用いたスマート農業によって、オランダの農業生産額は格段に上昇しました。オランダでは、約8割以上の一般農家が自動制御システムを搭載したコンピューターを導入していると言われています。
アグリポートA7は、オランダの北ホランド州にあり、トマトやパプリカ、メロンなどを栽培しています。このハウスのすぐ近くに、生産者、研究機関、商社、コンサルタント会社などが集まっており、センサーで吸い上げられたデータがそのオフィスへと送られ、24時間体制で適切な環境を保っています。生産者は、1日の仕事の大半を別に設けられているオフィスで管理し、ハウスに行くことはほとんどありません。
従来の農業は肉体労働を主にしていましたが、ホワイトカラーな労働環境は人材を集めることにも功を奏しているようです。

日本の農業DXの今後の課題(農水省の推進する背景)

製品・サービスのコストが高い

農業のDX化を進める上で導入コストが高いことは課題になっています。高いコストに対して費用対効果が見合うかどうかが定かでないものも多く、農家や農業関連の方が導入をする懸念点となっている場合もあります。

就農者のICTリテラシーが不足

農業DXを進める上では、機器を扱う上で一定のICTリテラシーが必要となります。そもそも高齢化が進む農業分野で、パソコンやスマートフォンの扱い方がわからないというケースもあり、そういった方が満足できるような農業DXのサービスはまだ少ないのが現状です。
また、導入して収穫量などのデータを取ることはできても、そのデータの活用方法がわからないというケースもあります。
いずれにせよ、就農者のリテラシー不足や、誰でも使いやすいサービスの不足は問題点となっています。

日本の農業の持続可能性に懸念 → 需要拡大に対してギャップが生じてしまう

農業DXは今後市場規模が拡大することが見込まれていますが、そもそも日本の農業が縮小傾向にあり、せっかく農業DXの導入が進んでも頭打ちになってしまうという課題もあります。

深谷市はスマート農業・アグリテックの社会実装に取り組んでいます

スマート農業・アグリテック企業の集積地を目指す深谷市が実施するDEEP VALLEY では、スマート農業技術の実証実験のためのさまざまな機会を提供しております。
例えば、「深谷市アグリテック導入支援事業補助金」を用意し、導入コストの負担を軽減することで、企業様の販促活動ならびに農家の方々のサービス導入を促進。市内におけるスマート農業・アグリテックサービスの浸透しやすい環境を整えております。
(「深谷市アグリテック導入支援事業補助金」については、こちら

  • 新製品開発のために実証実験をしたいが農地がない
  • 実証実験にどんな農地が適しているかわからない
  • 実証実験だけでなく現場の声を聞いて農家さんとコミュニティを広げたい

といったお悩みを抱えている企業のみなさまにお力添えできますので、ぜひご相談ください。

事例O1

農家目線のフィードバックで
ロボット開発が加速

株式会社レグミン
株式会社レグミン
代表取締役

成勢 卓裕さん、野毛 慶弘さん

DEEP VALLEY Agritech Award 2020
現場導入部門最優秀賞

事例O1

農家目線のフィードバックで
ロボット開発が加速

深谷市での取組前
自社圃場で自律走行型農業ロボットの実証を行っていたため開発スピードは保てましたが、農家や農業法人の目線のフィードバックを十分に得ることができず、改良点の洗い出しに苦労しました。
深谷市での取組後
深谷市で自律走行型農業ロボットの実証を開始してからは深谷市にご紹介いただいた農家や農業法人からの多数のフィードバックをいただき、改良点の洗い出しがスムーズになり深谷市での取組前よりもロボット開発が加速しました。
深谷市からは農家や農業法人のみならず、埼玉県の農林振興センターや農業協同組合、資材店など様々な業種の方々をご紹介いただき多方面からの協力を得ることができました。
また、レグミン社主催のロボット見学会実施の際にも、農家や農業法人などへの声掛けにご協力いただけたことにより盛会となりました。