ローテーション防除とは?農薬の抵抗性回避と安全な食材づくりのための基礎知識

ローテーション防除とは?農薬の抵抗性回避と安全な食材づくりのための基礎知識 ローテーション防除とは?農薬の抵抗性回避と安全な食材づくりのための基礎知識

2024.02.8

はじめに

近年、農業における大きな課題の一つとなっているのが、農薬の使用による耐性菌の発生です。この問題を解消するための有効な手段として、「農薬ローテーション」「ローテーション防除」が注目されています。本稿では、農薬ローテーションの基本的な考え方や、実践におけるポイントを解説します。

農薬ローテーションとは

近年、農薬の耐性問題が深刻化しています。一定の農薬を長期間使用し続けることで、病原体や害虫がその農薬に対する耐性を持つようになるのです。この結果、同じ量の農薬では以前と同じ効果を得られなくなり、農業の安定化や収穫量維持に影響を及ぼす可能性があります。

また、耐性のある菌や害虫が増えると、より強力な農薬を使う必要も出てきます。しかし、強力な農薬は人間や環境への影響も大きく、使用を避けたいところです。

そこで必要となるのが「農薬ローテーション」です。

農薬ローテーションとは、同じ農薬を連続して使用することで生じる耐性菌の出現を防ぐため、異なる成分や作用機序の農薬を交互に使用する方法のことを指します。これにより、農作物に対する病害虫の抵抗性の獲得を遅らせるだけでなく、多様な病害虫に対応しながらも、農薬の適切な使用を可能にします。

長崎県のいちごIPM防除体系マニュアルによると2月から下記のようなスケジュールでの薬剤防除が例として挙げられています。

2月下旬 キノンドーフロアブル 100倍
3月上旬 アントラコール顆粒水和剤 500倍
3月中旬 ジマンダイセン水和剤 600倍
3月下旬 ゲッター水和剤 1000倍
4月上旬 デランフロアブル 1000倍
4月中旬 ベルクート水和剤 1000倍
4月中旬 キノンドーフロアブル 500倍
4月下旬 セイビアーフロアブル20 1000倍
5月上旬 デランフロアブル 1000倍
5月中旬 ジマンダイセン水和剤 600倍
5月中旬 ベルクート水和剤 1000倍
5月下旬 ゲッター水和剤 1000倍
6月上旬 ジマンダイセン水和剤 600倍
6月上旬 キノンドーフロアブル 500倍
6月中旬 ジマンダイセン水和剤 600倍

キノンドーフロアブルやジマンダイセン水和剤など、同じ薬剤を連続で投与することはせず、いくつかを組み合わせることが推奨されていました。

ローテーション防除の農薬の選び方

異なる系統の農薬をローテーションで使用しないといけないことは理解したものの、どのように実践すればいいか不安だという方に向けて、ローテーション防除における農薬の選び方をご紹介します。

単に異なる農薬を使っていればOK というわけではない

農薬ローテーションで多い誤解としては、「異なる農薬を使っている」だけで問題ないとするものです。

  • 製品ラベルの記載通りの散布をしている
  • 防除敵期(発生前/初期)製品ラベルの記載通りの散布をしている

上で、薬剤の効果が低下している場合、薬剤抵抗性が疑われるためローテーション防除が望ましいのですが、異なる製品でも「作用性(=効き方)」が同じ薬剤であれば、菌や害虫にとっては “同じ薬剤” であるため、NGです。

RACコードを参照し、“作用点”の異なる農薬をローテーション使用

“同じ薬剤”をローテーションしないためには、それぞれの薬剤の代表的な有効成分が異なることが重要です。

「1B」や「1A,14」など、製品ラベルやチラシなどに表示されているRACコードを参照すると有効成分を識別できるので、そちらを活用し、“異なる薬剤”をローテーションできるようにしましょう!

農薬もとい殺虫剤は、作用メカニズム/部位 で大きく4種類ずつに分けられますが、この作用メカニズムをローテーションする必要はないのでご注意ください。

農薬の種類 作用メカニズム
殺虫剤
  1. 神経伝達系の阻害
  2. エネルギー代謝の阻害
  3. 生合成系の阻害
  4. 昆虫ホルモンの制御
殺菌剤
  1. 生合成系の阻害
  2. エネルギー代謝の阻害
  3. メラニン生合成の阻害
  4. 作物における病害抵抗性誘導

農薬ローテーションの注意点と対策

病気や害虫の種類による適切な薬剤の選択

農薬ローテーションを適切に実施するためには、まず病気や害虫の種類を正確に特定することが重要です。それぞれの病気や害虫に対して最も効果的な農薬を選択することで、必要以上の農薬使用を避けることができます。

例えば、イチゴの病害虫である「ハダニ類」は、とくに世代交代のサイクルが短く、薬剤に対する抵抗性が発達しやすいため、系統の異なる農薬を最低3種類のローテーションで使用しましょう。

  • シエノピラフェン系統:スターマイトフロアブル
  • ビフェナゼート系統:マイトコーネフロアブル
  • アセキノシル系統:カネマイトフロアブル
  • ポリグリセリン脂肪酸エステル乳剤系統:フーモン

しかし、同じ病害虫でも地域や季節により適切な薬剤が異なるため、それぞれの状況に合わせて適切に選択することが求められます。

また、病気や害虫の抵抗性を防ぐためにも、同じ成分の農薬を連続使用するのではなく、異なる成分の農薬をローテーションさせることが推奨されています。これにより、病害虫が一つの農薬に耐性を持つリスクを軽減することができます。

薬剤の効果期間と散布間隔の調整

農薬ローテーションを行う上で重要なのが、薬剤の効果期間と散布間隔の調整です。これらを適切に管理することで、農作物の成長に適した防除が可能となります。

例えば、薬剤Aの効果期間が2週間である場合、2週間後には別の薬剤Bを使用します。さらにそこから2週間後には再び薬剤Aを使用するといったローテーションを設定します。

具体的なスケジュール例を以下に示します:
使用薬剤
1週目 薬剤A
3週目 薬剤B
5週目 薬剤A
7週目 薬剤B

こうすることで、各薬剤の効果を最大限に活用し、同時に抵抗性の発生を防ぐことができます。

また、散布間隔の調整も重要です。天候や作物の成長状況により適切な散布タイミングが変わるため、日々の観察とそれに基づく判断が求められます。

残留農薬問題への配慮

農薬ローテーションは、安全な食材作りにも直結します。特に消費者が注目する残留農薬の問題について、ローテーションを工夫することで対策が可能です。

具体的には、使用する農薬の種類を順番に変えることで、一つの薬剤だけに依存せず、各薬剤の有効成分が作物に残る時間を最小限に抑えます。例えば、以下のようにスケジュールを立てることが考えられます。

【表】農薬ローテーションスケジュール
使用薬剤
1週目 農薬A(残留期間1週間)
3週目 農薬B(残留期間2週間)
5週目 農薬C(残留期間1週間)
7週目 農薬D(残留期間2週間)

これにより、薬剤の効果は維持しつつ、食材としての安全性も確保します。ただし、このローテーションは一例であり、作物の種類や栽培環境によって最適なスケジュールは異なります。それぞれの状況に合わせたローテーションを考えることが大切です。

まとめ

農薬ローテーションは、抵抗性害虫の増加を防ぎ持続可能な農業を実現する重要な手段です。イチゴやトマト、ネギなどの作物ごとに適切な農薬の使用頻度や種類を選ぶことで、害虫に対する農薬の効果を最大限に発揮しつつ、環境への影響を最小限に抑えます。

また、農薬ローテーションは安全な食材作りにも寄与します。例えば、イチゴの場合、一定期間ごとに異なる種類の農薬を使用し、それぞれの農薬の残留が一定以下になるよう管理することで、安全基準を満たす品質のイチゴを提供することが可能となります。

これらの方法を活用することで、我々は健康で、美味しく、そして安全な食材を得ることができます。そして、それは農薬ローテーションがもたらす、可能性の一例に過ぎません。